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October 18, 2023

5. 産業

アムステルダムを出て数分もしないうちに、広大な牧草地が目に入ってきます。牛や羊、馬などがゆったりと草を食み、その向こうには、じゃがいも畑や小麦畑が果てしなく続きます。アールスメーアやウェストラント地方では花卉や野菜の栽培が盛んで、大規模な温室群が広がる風景も見られます。

国土面積が日本の九州ほどしかないオランダですが、農業分野では世界有数の生産性を誇ります。農業従事者は就業人口全体の約2%程度に過ぎないものの、高度に機械化・工業化された農業システムと先進的な温室栽培技術、品種改良、水管理技術を活用した高効率生産により、オランダは米国に次ぐ世界第2位の農産品輸出国として知られています。

酪農製品、花卉、野菜、種子などは国際的にも高い評価を受けており、ワーヘニンゲン大学・研究機構(Wageningen University & Research)を中心とする産官学連携による研究開発が、農業分野の継続的な技術革新を支えています。

農産物・食品は現在でもオランダの主要輸出品の一つであり、農業は同国経済を支える重要な基幹産業となっています。

一方、第2次世界大戦後の旺盛な設備投資によって鉄鋼、石油精製、化学工業などの基幹産業が発展しました。現在ではこれらに加えて、電子機器、精密機械、医療機器、ライフサイエンス関連産業などの高付加価値分野が成長し、工業製品は輸出の大部分を占めています。特に半導体製造装置、光学技術、先端材料などの分野では、世界市場をリードする企業が数多く存在しています。

かつて北部フローニンゲン州の天然ガスはオランダ経済を支える重要な資源でしたが、近年は環境問題や地盤沈下への対応から生産が縮小されています。そのため現在は、洋上風力発電や水素エネルギー開発をはじめとする再生可能エネルギーへの転換が積極的に進められています。オランダは欧州のエネルギー転換を牽引する国の一つとしても注目されています。

またインフラストラクチャーの面では、ロッテルダム港を擁し、スキポール国際空港とともに欧州有数の物流拠点を形成しています。縦横に張り巡らされた運河網は現在も重要な輸送路として利用されており、ライン川を経由してドイツ、スイスなど欧州内陸部へとつながっています。高速道路、鉄道網、内陸水運が効率的に結び付けられた物流システムは、オランダの大きな競争力となっています。

このような優れた交通・物流ネットワークを背景に、多くの国際企業が欧州統括拠点や配送センターをオランダに設置しています。オランダは「ヨーロッパの玄関口」としての役割を果たすだけでなく、国際貿易、金融、情報通信、デジタル産業の中心地としても発展を続けています。

近年では、環境技術、水管理技術、循環型経済(サーキュラーエコノミー)、ライフサイエンス、人工知能(AI)、半導体関連産業などの分野への投資も活発であり、スタートアップ企業の育成にも力を入れています。オランダ経済は伝統的な農業・貿易立国の強みを維持しながら、持続可能な社会を支える先進技術国へと発展を続けています。

オープンイノベーション先進国としてのオランダ

近年のオランダ経済を特徴づけるものとして、産官学が連携する「オープンイノベーション」の発展が挙げられます。オランダでは企業、大学・研究機関、政府が密接に協力しながら研究開発や事業化を進める仕組みが広く定着しており、世界有数のイノベーション創出国として高い評価を受けています。欧州委員会のEuropean Innovation Scoreboardにおいても、オランダは長年にわたりEU屈指の「Innovation Leader(イノベーション先進国)」に位置付けられています

オランダ政府は産業政策の柱として、「トップセクター(Topsectoren)」を設定し、企業・大学・研究機関・自治体によるコンソーシアム形成を支援しています。エネルギー、農業・食品、水資源、ライフサイエンス、ハイテクシステム、化学、物流、創造産業などの分野で数百に及ぶ官民共同プロジェクトが進められており、共同研究や実証実験が日常的に行われています。

その代表例がアイントホーフェンを中心とする Brainport Eindhovenであり、企業、大学、自治体が一体となった欧州有数のハイテク・イノベーションエコシステムとして知られています。同地域にはASML、Philips、NXPなど世界的企業をはじめ、5,000社を超えるハイテク企業・IT企業が集積し、半導体、AI、フォトニクス、先端製造技術などの研究開発が行われています。

また、アイントホーフェンの High Tech Campus Eindhovenは「欧州で最も成功したオープンイノベーションキャンパスの一つ」とも呼ばれ、200社以上の企業・研究機関と1万人を超える研究者・技術者が活動しています。企業の垣根を越えた共同研究が行われ、新技術やスタートアップ企業が数多く誕生しています。

ライフサイエンス分野では、官民連携組織 Health~Hollandが中心となり、大学、病院、研究機関、製薬企業、医療機器メーカーなどを結び付ける全国規模のイノベーションネットワークを形成しています。同組織は公民連携(PPP)による研究開発や事業化支援を推進し、オランダの医療・ヘルスケア産業の競争力向上を支えています。

このようなオープンイノベーション文化は、オランダの強みである、農業、水管理、エネルギー転換、半導体、ライフサイエンスや、オランダ政府が将来の5つの中心的ミッションとして掲げる気候・エネルギー(IKIA)、循環型経済、農業、水、食料、健康とケア、安全保障などにも幅広く浸透しており、オランダが人口約1,800万人の小国でありながら世界有数の技術立国として存在感を発揮する大きな要因となっています。

参考資料:オランダ政府トップセクター政策  https://www.topsectoren.nl/

October 18, 2023